教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 確かにここ数日、俺は亜美を探して紳士服売場に行った。
 だが不審者扱いされるような覚えはない。服装にもちゃんと注意したし。

「な、何で俺だと?」
「そいつはごつい黒縁メガネをかけていたそうだ。それに」

 敬ちゃんは笑みを浮かべて立ち上がると、俺の隣に立った。

「寝癖がついた髪、一番上までボタンを留めたポロ、黒ベルトをしたデニムに、きっちりシャツイン」
「う」
「今どき、そんな格好をしているのは林ちゃんくらいだ。せっかく桐島にいい感じに仕上げてもらったのに……何やってんだか」

 俺は愕然として、敬ちゃんを見やる。寝癖はともかく、服には気をつけたはずなのに。

「まずい……か?」
「まずい」

 敬ちゃんはデスクからワックスを取り出すと、瞬く間に俺の髪を整え、ポロシャツのボタンを二つ外して、裾をジーンズから引き出した。

「そのデニムはちょっとあれだが、これで少しはましになった。あとは明日までにメガネを買い換えるか、コンタクトにしろ。あ、カフェに行く時は俺に連絡しろよ。念のため似合いそうなものを用意しておいてやる。うちはおしゃれなお客様が多いからな。それなりに決めていれば、かえって目立たないんだ」

 仕事上、身だしなみに気を遣わなければならないのだろう。敬ちゃんの部屋の奥には大きな鏡があって、そこに俺の姿が映っていた。

(前と違うのか? どこが?)

 俺にはいろいろ面倒過ぎる。だが、すべては亜美のためだ。

「よろしく……お願いします」

 俺は素直に頭を下げた。
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