教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 敬ちゃんが言っていたカフェは、確かに絶妙な場所だった。
 目立たず、静かで、落ち着ける。

 特に奥の一角は外からだと、大きな観葉植物がいい目隠しになっていた。その代わり、中からは『エクセレント・ラウンジ』の周辺がよく見えるのだ。
 注文があれば、パフェや軽食をラウンジに運ぶこともあるらしかった。 

 午前中はそれほど混まないというので、俺は開店からしばらくして、目当ての席に陣取った。

 ようやく亜美に会える。
 とはいえ、これからどんなふうに彼女に近づくか――問題はそこだった。

 気持ちははやるものの、いきなり会いに行くのはやはりまずいだろう。どんな理由があるにせよ、一度は逃げられているのだから。

 それに相手は勤務中だし、驚かせたり、怖がらせたりしたくない。

 どうしてローマで俺を待っていてくれなかったのかとか、なぜ急に帰国したのかとか、訊きたいことは山ほどあった。
 もちろんプロポーズのことも。

 だが、いきなり亜美を責め立てるつもりはなかった。
 込み入った話は後でするとして、まずはなんとかしてそこまで持っていかなければ。

(さてと)

 コーヒーを注文し、ふと外を見やった時だ。

「うおっ!」

 とっさに変な声が出てしまい、俺は慌てて両手で口元を押さえた。
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