教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
(亜美!)

 予約客を迎えに出てきたのだろうか? 『エクセレント・ラウンジ』の手前に、亜美が立っていたのだ。

 今日から出勤すると敬ちゃんから聞かされてはいたが、まさかこれほど早く彼女の姿を見ることができるとは思わなかった。

(……やばい)

 ドクドクと脈が乱れ、異様に速くなっていくのが自分でもはっきりわかる。
 向こうからは見えないはずだが、俺は大きな観葉植物の横で身を縮めた。

(亜美――)

 すぐに目当ての相手が来たらしく、亜美は年配の女性ににこやかに応対していた。

 ――いらっしゃいませ。ようこそ『エクセレント・ラウンジ』へ。

 もちろんここからでは、そのやり取りが聞こえるはずはない。
 それでも俺の耳には彼女の澄んだ声がはっきり響いていた。

 今日の彼女は、初めて会った日と同じ薄いグレーのジャケットを着ていた。
 光の加減のせいなのか淡い銀色の光に包まれているようで、なんだかまぶしく見える。

 ローマにいた時よりも髪が伸びて、少しやせたかもしれない。
 それでも笑顔は生き生きしていて、目を奪われた。きびきびした、かろやかな身ごなしもあの時のままだ。

(楽しそうだな……本当に)

 元気そうに見えることに安心しながらも、心の中でいろいろな思いが交錯する。

 ほっそりした姿がラウンジの中に消えてしまうまで、俺は彼女から視線を外すことができずにいた。
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