優しくない同期の甘いささやき
黒瀬さんの前では、いつも明るい私でいたい。

しかし、黒瀬さんの返事を聞いて、私は固まった。


「つわりでご飯作れそうにないから、食べてきてと言われたんだ」


私の脳内は真っ白になり、言われたことを理解するのに時間を要した。

「えっ?」と小さく驚く熊野の声が遠くから聞こえている感じがする。


「奥さん、ご懐妊ですか?」

「そう、安定期に入るまでは秘密してな」

「了解です。それは、おめでとうございます」


おめでとう……そうか、めでたいことだ。

止まっていた思考が動き出す。正直喜べる内容ではないが、熊野と同じことを言わないと……不審に思われてしまう。

自分を奮い立たせ、動揺を悟られないようにして、祝う言葉を必死で思い浮かべた。

ありきたりの言葉しか浮かんでこない。


「おめでとうございます! 予定日はいつですか?」

「加納ちゃんもありがとう。年内には生まれる予定だよ」

「わあ、今年中には黒瀬さんもパパなんですね! すごいなー」

「別にすごいことじゃないよ」


照れる黒瀬さんを見て、私の心は暗くなっていた。
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