優しくない同期の甘いささやき
私の呟きに、熊野が訝しげな声を出す。


「私に優しくしてくれなくてもいいの。黒瀬さんを見ていられるだけでいい」

「バカか」

「言うと思った」


ハハハと乾いた笑い声が出る。悲しいのは私なのに、なぜか熊野が切なさそうな顔をしている。


「そんな辛い恋、やめろよ。加納……何度か言ってるけど、俺と付き合えよ」

「熊野も懲りないね。答えはノーよ」


私の想いを知っている熊野は、私に辛いことがあると『俺にしろ』と言ってくる。ちょっと俺様口調ではあるが、熊野なりの優しさからだと理解はしている。

でも、私が好きなのは黒瀬さんであって、熊野ではない。

『愛するよりも愛されるほうが、幸せになれる』と誰かが言っていた。

私には賛同できない意見だ。

だいたい熊野は私を好きで『付き合え』と言っているのではない。ボランティアみたいなものだと思う。


「加納も頑固だよな。もっと気楽に考えていいんだよ? 他のヤツを想っていても、受け止めてやるのに」

「そんなの無理だよ。他の人が好きなのに付き合うなんて、出来ない。私、そんな器用じゃないもん」

「確かに加納は不器用だな」
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