優しくない同期の甘いささやき
熊野の言動は理解できないことばかりだ。


「ふざけるな。俺を見ると決めたんじゃなかったのか? なんでよそ見しようとしてるんだよ?」

「よそ見?」

「他の男なんか、見なくていい」


独占欲をあらわにする熊野に、私は出入り口まで引っ張られた。

熊野は私の手をしっかり握ったままで、店員と話す。まだ何も注文はしていなかったが、一度席についていた。

席料を払おうとしていたが、お通しも出していなかったので不要だと言われる。

熊野は「すみません」と律儀に頭を下げた。

私たちは外に出る。雨は、やんでいた。


「何が食べたい?」

「えっ?」

「奢るから、食べたいものを言って」


目をぱちくりさせて、熊野を見た。熊野はひと呼吸おいて、再び口を開く。


「勝手なことして、ごめん。だから、お詫びとして奢るから……」


徐々に声が小さくなった。

しおらしい姿になった熊野を前にして、私は噴き出した。


「なんなのよ、もう。ほんと、勝手なんだから。廻らないお寿司でも奢ってもらおうかな」

「は? 寿司?」
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