優しくない同期の甘いささやき
笑われてしまった。

でも、いいの……笑顔が見れて幸せになれるから。


「じゃあ、付き合ってくれる?」

「はい、お供いたします!」


『付き合って』とは、なんて素敵な言葉なのだろう。今夜もしかするともしかしちゃうかも!

浮かれる私は、踊りそうになる。しかし、ここにいらないヤツが登場。


「お、熊野。お前もどう? 今夜空いてる?」

「今夜ですか?」


熊野は突然のことにキョトンとして、私たちの近くに寄ってくる。

熊野の方が黒瀬さんより少し背が高い。ふたりの間に立つ私は子供みたいだ。

黒瀬さんは私と食事することを話した。

断りなさいよ、あなたはお呼びではない、シッシッ……と目で訴えた。

だが、この訴えは届かなかった。


「ぜひご一緒させてください」


熊野はにこやかに返事をした。黒瀬さんは、うれしそうに頷く。

喜ぶことではないですよ……という、私の心の声は届かず……。



「おう、じゃあ定時に退社ね」

「はーい、了解でーす」


黒瀬さんが喜ぶのなら仕方ない……元気よく返事をする。熊野に急用が入らないかとひそかに願う。

良からぬことを考えながら自席に戻る黒瀬さんの後ろ姿を見送っていると、熊野がイヤな笑みを浮かべた。
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