8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「オスニエル様、変わりましたね」
「そうか?」
「昔は仕事を遂行するのに女性は邪魔だという考えでいらっしゃいましたよ」

 言われてみれば、そうだったろうか。たしかに戦時中は結婚する気にはならなかったし、男女のあれこれで心を煩わされるのも面倒だった。
 だが今は、なにをするにしても『フィオナの意見を聞いてみたい』という思いが先立つ。

 オスニエルは、幼少期から王太子として帝王教育を受けてきた。
 大国を治めるものとしての心がまえとして、細かいところよりも大局を見ろ、感情よりも論理的に考えろと言われて育ってきたのだ。

 それは一理あることで、君主が個人の事情をいちいち鑑みていては、話が進まない。大きな国を動かすには、広い視点で物事を見る必要があるのだ。
 父ももちろんそういう考え方をするし、ドルフも、往々にして結果さえついてくるのならば、途中経過は気にしない傾向がある。もしかしたら、それは男性的な視点なのかもしれない。
 だから、フィオナが見せる、人の心を慮り、細やかに気遣う姿は、オスニエルには新鮮なものだった。

 孤児院に関しても、オスニエルは国庫から金を出しているというだけで支援していた気になっていた。孤児の就職先に関して考えることなどせず、ただ、孤児の人数だけを把握し、対応する受け入れ先があるのかということだけを気にしていたのだ。

 自分たちで将来のための資金を貯めさせよう、子供たち本人に未来の可能性を教えてあげようという発想は、自分からは絶対に出てこなかっただろうと思う。

 時には、どうしてこんな些末なことを、と思うこともある。けれど、フィオナの意見の根底には必ず、国を支える国民を守るという思想があるのだ。
 オスニエルは彼女が教えてくれた新しい視点に感心しているし、感謝もしている。自分のこれまでの考えを変えてもいいと思うくらいには。

「自分の意志だけで推し進めるのは違うと学んだのだ、これでも」
「いい伴侶を得ましたね」
「そうだな。お前はいまだに独り者で可哀想だな」

 ロジャーに諭されるのも癪に障るので言い返すと、ロジャーは憤慨したようだ。

「部下への心遣いも学んだ方がよろしいですよ! フィオナ様ならそんなこと言いません!」
「うるさい」

 名前を出されると、もっと会いたくなる。

「……支度をする」

 プイとそっぽを向いて、オスニエルは用意された礼服へと袖を通した。
 そして、空いた時間ですぐに、滞在が伸びたという内容と、『久しぶりに弟とゆっくり過ごすといい』と手紙への返事を書いた。

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