8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「お待たせいたしました」

 フィオナのことを考えていたからだろうか。侍女が扉を開けた時、奥に立っているジャネットが一瞬フィオナに見えた。しかし、瞬きをして、我に返る。
 ジャネットはオスニエルの三歳年下で、女性として熟成した年齢だ。まだ二十歳のフィオナとは違い、落ち着いた印象がある。
 ふくよかな胸に見事な腰のくびれ、それを強調するようなマーメイドラインのドレス。落ち着いた紺色が、彼女の大人びた顔にはよく似合っていた。
 綺麗に化粧を施し、特産である香水をつけている。百合を思わせるような香りが、あたりに広がった。

「これが、売り出したいと言っていた香水か? 百合の香りがするが」
「香水の種類はたくさんあります。これは百合の精油をベースに配合したものですね」

 ただ、いささか香りが強い。フィオナがあまり香水をつけないせいか、どうにも匂いが鼻につく。

(そういえば、フィオナはなにもつけてなくても、いい香りがするな)

 最近は、子供たちと過ごす時間が多いからかミルクっぽい香りが強い。初めて授乳する姿を見たときは、聖母という言葉が浮かんでくるほど、尊く、美しく見えた。

 最近はアイラもオリバーも食事で栄養を取るようになったため、見ることはなくなったが、時々甘えるように彼女の胸にくっついているのを見かけたことがある。

「オスニエル様?」

 ジャネットに呼びかけられ、意識がフィオナの元へ飛んでいたオスニエルは我に返る。

「ああ。……では行こうか」
「はい」

 ジャネットの身長にしては低い位置に手を差し出してしまい、オスニエルは慌てて手の位置を修正する。ジャネットは不思議そうな顔をしながら、右手を乗せ、歩き出した。

「まさか、今になってこうしてオスニエル様と歩けるとは思いませんでしたわ」
「ああ。縁談のことか? あの時は悪かったな」

 さらりと謝罪すれば、ジャネットは変な顔をした。

「なんだ?」
「いえ。オスニエル様が謝ることがあるとは思わなかったので」

 以前、フィオナにも言われた気がする。
 彼女に会う前は、自分の考えが絶対だと思っていたし、王太子である以上、人に弱みを見せるなど、あり得ないと思っていた。
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