8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
  *  *  *

 オスニエルが不在となりひと月半が過ぎた。当初はひと月の計画だったのに、それが延び延びになったのは、夜会の予定が入っただけではなく、ロイヤルベリー領で軽いもめ事が起こり、その仲裁を任されたかららしい。【まだしばらく帰れない】という内容の手紙を見て、フィオナはため息をついた。
 エリオットの留学の話は順調に進み、本日、エリオットの一行がオズボーン王国の王都へとやって来た。

「エリオット!」
「姉上。お久しぶりです」

 最後に会ったとき、エリオットは十五歳だった。けれどもう十七歳。以前より背も伸び、大人っぽい表情をするようになった。

「ここで建築美術を学べるなんて、夢みたいです」
「エリオット、気が早いわ。編入試験を受けなければならないのでしょう?」
「自信はあります。帝王教育より身を入れて学びましたからね」

 エリオットはうれしそうに頬を染めている。そのうしろには、彼の護衛騎士であるローランドが控えていた。
 エリオットは白フクロウのホワイティの加護を得ているので、おそらく彼女もどこかにはいるのだろう。野生の獣や鳥たちともめ事を起こさないでくれることを、フィオナはひそかに願った。
 エリオットの試験は二週間後だ。その間、王城の客室に滞在し、試験対策の家庭教師をつけ、最後の調整をするのだ。

「オスニエル様が父上を説得してくれたおかげなのですよ」

 お茶を飲みながら、エリオットは目尻を緩ませた。オスニエルとエリオットは、以前フィオナを救うために薬を取りに行ってから急に打ち解け、常から手紙のやり取りをしているらしい。

「まあ、そうなの」

 フィオナとエリオットの父は、祖父から受けついだブライト王国を守ることに執心していたため、芸術方面には造詣が深くない。世継ぎであるエリオットが、古典や建築美術といった方面にばかり興味関心を抱くのをよくは思っていなかったはずだ。

「オスニエル様が、美術を知るのは歴史を知るのと同じようなものだとおっしゃってくれて」

 たしかに、美術には国の宗教性が現れるし、職業画家はパトロンである貴族の意向を強く受ける。やや強引ではあるが、そこから世情を読み解くこともできないことはない。
 オスニエルは武力の人とばかり思っていたが、そんな説得もできるのかと、フィオナは改めて感心した。
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