メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
「ねえ、こんなところでも仕事なの?」
シャワーを浴びてガウン姿になった亜里沙が身を寄せてくる。
甘い香り。いつもならすっと抱き寄せ、そのままベッドへ…
という流れなのだが、タブレットに映る青空とレモンの木が安西を引き止めた。
既婚者と言っても、妻とはなんの繋がりもない。灯里と交わした契約書にも、『お互いの異性交遊に口出しをしない』と明記してある。でも、急激に亜里沙を抱く気持ちが失せた。さすがに、安西にも人としての理性が働いたのだ。
「悪い。急な仕事が入った。支払いは済ませておくので、このまま泊っていってくれ」
安西は手早く身支度を整え、驚く亜里沙を置いてホテルを後にした。
亜里沙には悪いことをした。安西が結婚したことは、今西と人事部長しか知らないことなのだ。偽装である以上公にするつもりはないが、隠して女性と付き合うのはダメだ。
六月に入り、夜道も温かい。歩きながら灯里のことを考える。
「明日の昼飯は、海鮮焼きそばにするか」
ちょうど十二時に食べないといけないらしい。エアで食べるふりをするより、本当に食べた方が臨場感が出る。臨場感が必要かどうかは置いとくが…
面倒くさいと思いながらも、楽しみにしている自分もいる。家に向かいながら、灯里が作る焼きそばに近いものは、どこに行けば食えるかなと考えた。