メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

『拝啓旦那様
海風が初夏を感じさせる気候になってまいりました。いかがお過ごしでしょうか。
前にお知らせしたとおり、明日は港でお祭りがあります。「魚まつり」というシンプルな名前通り、屋台では瀬戸内の魚を煮たり焼いたり。お寿司を作る人もいて、魚を楽しむお祭りのようです。

島の調査もちゃんとしていますので、ご安心ください。相棒の不二子ちゃんと共に、あちこちを観察してきましたが、頂いたデータ通り、島の至る所でレモンが栽培されています。
島の人たちはみんな、レモンを島の観光に役立てたいと思っているようですが、お年寄りの多い島なので思うようにいかないのがつらいところ。
魚まつりにもレモンブースを出すそうですが、レモネードだけだと言っていました。レモンの特産品があればいいのに…と少し残念です。
私は明日は焼きそば担当です。あっ、普通の焼きそばじゃないんですよ。魚まつりなので、イカとエビの海鮮焼きそばです。「イカとエビは魚じゃないだろ」なんて無粋なことは言いっこなしです。ちょうど十二時に東京に向けて焼きそばを差し出すので、旦那様はあーんと口を開けて待っていてくださいね。末筆ながら私は今日も元気いっぱいです。灯里』

「レモンと魚まつりか…」

安西は呟いた。
メールには青空とレモンの木の写真が添付されていて、爽やかな風を感じられるようだ。

安西はホテルの一室でこのメールを読んだ。

このところ忙しく少し煮詰まっていたところに、同僚の吉田亜里沙から誘われ食事に出た。大学の同級生でもある亜里沙とは、いわゆる大人の付き合いで、体だけの関係が二年ほど続いている。お互い結婚願望がなく、その気になった時だけ誘ったり誘われたりという感じなのだが、今日は久しぶりに声をかけられ、いつも利用しているホテルにきた。

亜里沙がシャワーを浴びている間に、メールのチェックをしたところ灯里からの定期便がきていた。そういえば今日は金曜だったか、と思った瞬間、自分が既婚者だったと気がついたのだ。

健やかな灯里に対して、自分はなんと退廃的な生活を送っていることか…


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