メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~


「おい!灯里ちゃんの居場所がわかったぞ。京都だ」
ノックと同時に今西が入ってきて、大声で言った。

安西は思わず立ち上がる。
「京都?なぜわかった?」

「今朝、葵さんから晴夏に電話があったんだ。コソコソと話してるから不審に思ったんだが、『なぜ黙ってたのよ』と言ってるのが聞こえた。そしたら電話を切ったとたんに京都に行くと言い出したんだ」

「それだけで、灯里が京都にいるとなぜわかる?」
眉を寄せて安西は訊ねた。

「何があったと聞いたら、ちょっと人に会う用事ができたからと言うんだ。隠し事をするとき、晴夏は目に見えて挙動不審になるからな。じーっと見ていたら、あからさまに怪しい感じで荷物を詰めていた。京都のどこに行くんだと聞いたら、小さな声で貴船と言った。貴船は和泉家の別宅があるだろ?和泉の人たちが、そこに誰かがいるのを黙っていて、晴夏が急いでその誰かに会いに行く、となると灯里ちゃんしか考えられない」

今西はさすがの推理力で説明した。おそらくおじい様が仕組んだことだろう、という結論にも納得する。灯里は四国にいた時に厳太郎と会っているはずだ。

「晴夏に伝えれば、すぐに俺が気づくと読んだ上のことだろうな。そうすると自然とおまえの耳に入る。どうする?おじい様の筋書きに乗るか?」

してやったりという顔でニヤニヤしている厳太郎の顔が目に浮かぶ。
ムカつくが灯里の居場所がわかった以上、会いに行かないという選択肢はない。

おそらく偽装結婚をした安西への罰のつもりだろう。
いつ偽装結婚のことを知ったのかはわからないが、こっちには晴夏という弱点があるのだ。そこが出所に違いない。

クソじじいめ。こっちは生死の境をさまよった上に、灯里がいなくなり、失意のどん底にいたというのに。

でも、灯里を探さねばと思って、リハビリも頑張った。医者が驚くほどの速さで回復を遂げたのは、じいさんのシナリオのせいかもしれないが。

「今日と明日、スケジュール調整できるか?」
「了解。俺が代わりになんとかする。蒔いた種をしっかり刈って来いよ」
「ああ」

安西は、今西に感謝して足早に部屋を出て行った。


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