メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

「灯里ちゃんっ!!」
晴夏は葵が言った通り、すごい勢いで飛び込んできた。荷物を投げ出し、灯里に抱きつくと声をあげて泣き始める。

「晴夏さん、心配かけてごめんなさい…」
灯里も晴夏を抱きしめ返す。晴夏は、無事でよかったと呟いて、またオイオイと泣いた。

「あらあら、晴夏様。そんなに泣いて」
静子は晴夏の涙をぬぐい、鼻までかんであげている。
和泉家の子どもたちはみんな、静子が世話をしてきたそうだ。安西の母、陽子も里帰り出産だったので、安西も晴夏も生まれた時から静子の世話になっている。

「晴夏様が一番手のかかる赤ちゃんでした」
懐かしそうに静子は言い、手のかからない赤ちゃんの筆頭である悠太郎は目を丸くして、晴夏を見ていた。

泣くだけ泣いて落ち着いたら、「お腹がすいた」と言う。本能のままに生きる晴夏にみんなで大笑いだ。

「葵ちゃんが誰にも言うなって言うから、こっそり出て来たの。絶対俊樹にはばれてないから、兄貴が来るはずないわ」

静子が出してくれたご飯をたいらげ、食後に『京泉』の葛饅頭を食べながら、晴夏は自信たっぷりに言う。

でも、誰が見ても晴夏はわかりやすい。実際、隠し事を隠し通せたことがあるのかが疑問だ。

「兄貴、灯里ちゃんのこと探してるわよ。休みのたびに、灯里ちゃんが移り住んできた土地を巡ってるもの。兄貴が入院してる病院に押しかけて来た人、元カノなんだって。でも、その人ともちゃんと話がついて、今は何にもないみたい。昔は本当に女性に関してルーズだったから、それに関してかばう気はないけど、灯里ちゃんのことは本気だと思う。だから、もう一度話をしてやってくれないかな」
私が兄貴のためにこんなことを言う日が来るなんて、と笑いながら晴夏は言った。

亜里沙は婚約者じゃなかった。ホッとしたような、なんとも空虚な気持ちになる。
安西にはもう婚約者がいるのだと、自分に言い聞かせてきたのだから。

「でも、ヤマダって偽名使ってたけど、灯里ちゃんよく気づかなかったね。兄貴、ママにそっくりなのに」

そうなのだ。今考えると安西は義母にそっくりで、自分でもなぜ気づかなかったのかと呆れる。

「初めてヤマダさんに会ったとき、懐かしい気はしたんです。でも、懐かしいんじゃなくて、お義母様に似てたからだと後になって気づきました」

「なぜ偽名を使ってたのかっていう疑問はあるけど…」
晴夏は首をひねった。

「それについてはちゃんと説明させてほしい」
神妙な顔で安西が入ってきた。


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