契約結婚のススメ
 女性運転手は「差し出がましくすみません」と、謝った。

「いえいえ。お話が聞けて良かったです」

 なんとなくわかった。女性運転手は単なる世間話ではなく、枇杷亭を心配してくれているのだ。

 もしかすると、私の涙も枇杷亭でなにかあったと誤解したのかもしれない。

 シノさんの涙、外部に流れるお客様の声。そして現れた柳美加。

 枇杷亭はどうなってしまうんだろう。


 話をしていたお陰で、世田谷に到着した頃には気持ちも落ち着いていた。というよりも、悩み事が増えて、泣いてる場合じゃないと思い知ったという感じだ。

 しっかりしなきゃ。

 地に足をつけて、目の前で起きているひとつひとつと向き合っていかなくちゃいけない。

 とりあえず今の私は、南城一貴の妻なのだから、夫を支えなくちゃ。

 急いでスーツケースを引っ張り出し、パスポートをバッグにしまって出かける準備を整えた。

 祖父に電話をかけて事情を話し、陶だまりには当分行けないと報告する。

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