契約結婚のススメ
 そういえば、森下さんが言ってた。

『噂では色々言われていますが、実際の専務は女性にそっけないんです』

『そっけない?』

『ええ。ですから結婚してもそうかとばかり思っていました。妻にも冷たいんだろうなって。なのに、奥様と結婚が決まったとき、私が政略結婚ですか?って聞くと、専務は恋愛結婚だっておっしゃって。心から、とてもうれしそうに。奥様は特別な方なんですね』

 あのときは何を聞いても信じられなかった。でも。

「今思えば、ローマで誘ったときから、陽菜に惹かれてたんだな」

 たまらず顔を上げた。

 その話、本当なの?

 一貴さんは私の涙を指先で拭いながら、話を続ける。

「連絡先を教えただろう?」

「うん」

「俺の一生のうちで、女性に自分から連絡先を教えたのは、あのとき一度きりだよ」

「そうなの?」

「ああ、本当だ」

 私の部屋の引き出しに、あのメモは大切にしまってある。

「だから気になって見合いなんてしたんだ。相手が陽菜だから」

 また涙が込み上げた。

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