契約結婚のススメ
 次のセリフは決めていた。

〝私を好きにしてもらってもかまいませんから〟

 父を、枇杷亭を助けてもらうには、億のお金が必要だと思う。

 なのに、なにもない私が差し出せるものは私自身だけ。

 誰とも付き合った経験のない二十二歳の純情にどれほどの価値があるかわからないけど。それしかないから。

 でもやっぱり、いざとなると言いだせない。
 言ったところで、お前にその価値はあるのかと笑われるのがおちだ。

 俺にどんなメリットがあるかと聞かれたら、答えようがない。その時はあきらめるしか……。

 続く沈黙が長い。


 もしかしたらほんの数秒かもしれないけれど、とてつもなく遅く感じる時の流れに、息が詰まりそうになる。

 きっと彼も戸惑っているんだろう。

 やっぱりダメか。
 あきらめの気持ちを胸に、恐る恐る顔を上げると目が合った。

「一体なにがあったんだ? ローマで遭った時は、結婚なんて全く考えていなかったと思うが?」

 彼は心を覗くような目で、私を見据える。

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