契約結婚のススメ
 それもそうだろう。ローマで会った時の私は、全く結婚なんて考えていなかった。

 語学を学び、これからもヨーロッパの歴史に触れたいと夢を語った。『結婚の夢はないんです』と言ったことを彼は覚えているのかもしれない。

「事情が変わったんです」

「事情?」

「はい。時間がないんです。私の夢なんて後回しにできるけど、父には――」

 私は父が倒れた話と、枇杷亭が苦境に陥っている話をした。

「父は余命宣告をされている状況です。最期くらい安心させたいんです。私の花嫁姿を見せてあげたくて。期間限定でいいんです。ずっとじゃなくても、父が生きているうちだけでも幸せな姿を」

 せめて……。

 思わず涙がこみ上げそうになる。

「希子さんは承知の上なのか?」

「義母は知りません。ただ、いいお話があると薦めてくれただけで、私がこんなふうに頭を下げて頼むなんて思ってもいないでしょう。これは私だけの考えです」

 言うだけ言ったら、少しすっきりした。

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