契約結婚のススメ
 恋人どころか、この俺がうっかり結婚するはめになってしまった。

「それもそうですね。すみません、専務のプライベートはベールに包まれているもので……」

 森下はもごもごと語尾を濁す。

 俺は休みに入ると、余程の緊急事態じやなければ返事を返さない。それが不満なんだろう。

 なにをしてるわけでもない。せいぜい男友達と飲んでるか、ひたすら寝溜めしてるかのどっちかだが、俺の貴重なプライベートまでお前たちに抑えられてたまるか。

「結婚の発表頼むぞ。披露宴には関係者も呼ぶ予定だ」

「はい。わかりました」

 ようやく頭を上げた森下は、納得したようにすっきりとした表情でくるりと向きを変え、扉に向かって歩き出した。

 やれやれと思いながらその背中を見つめていると、森下はふいに立ち止まって振り返った。

「なんだ。まだなにかあるのか」

「政略結婚なんですよね?」

「いや、恋愛結婚だが?」

 ギョッとしたように目を見開いた森下は体ごと俺に向き直し「恋愛? 専務が?」と聞き返す。
 なにもそんなに驚かなくてもいいだろうに。

「おかしいか?」

「い、いえ」

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