契約結婚のススメ
 そんな素敵な彼の隣に立つのは、老舗料亭の娘というだけの普通女子とあって納得いかないのだと思う。

 今もなに気なく目が合った女性が、きつい目で一瞬私を睨みツンと横を向いた。

 笑顔を浮かべ、悲喜こもごもの視線に晒されること一時間近く。ようやく一旦解放された。

「これで主だった客には挨拶できたし、あとは二次会でいいか」
 はぁ、よかった。

 ほんの数メートル先に、私の友人たちがいる。
 あそこでゆっくりしよう。

 一貴さんはどこかに行ってしまうのかと思いきや、「陽菜の友だちにも、ちゃんと挨拶しようか」と私の背中に手を添えた。

 どうやら彼は、なんの肩書きもない私の友人達にもちゃんと気を使ってくれるらしい。

「本日はご出席ありがとうございます」

 友人たちはガタガタと椅子の音を立てながら慌てて立ち上がり、頬を染めて頭を下げる。

「お、おめでとうございます」
「ど、どうもこの度は、おめでとうございます」

 みんな緊張しすぎてコチコチになっている。揃って挨拶したはいいが、しどろもどろだ。

「ありがとうございます。どうですか? 楽しんでいますか?」

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