契約結婚のススメ
 キッチンに向かおうとして、リビングから聞こえた声の主に足を止めた。客は母の古くからの親友、椿山希子さん。椿山家の後妻に入った陽菜の義母だ。

 希子さんは俺が子供の頃から知っている。久しぶりなので、なんの気なしにリビングに入って挨拶をした。

『あら一貴さんお久しぶり』

 顔を合わせたのは、数年前だった。

『久しぶりです』

『ちょうどよかったわ。あなたもここに座りなさいよ』

 まさか誘われるとは思わなかった。

 やっぱりリビングに入らずに引き返せばよかったかと、内心ため息をつきながら母の隣に腰を下ろすと、母が俺の友人たちの独身男性の名前を上げろと言う。

『鈴木さんと須王さんは結婚が決まっているのよね。西園寺洸くん独身よね? 氷室仁くんも』

『ああ。それがどうかしたか?』

 聞けば希子さんの娘の結婚相手を探しているという。

『そういえば陽菜ちゃん、いくつ?』

「五月で二十三歳よ。大学卒業したばかり」

『あら、じゃあまだ結婚は早いんじゃない?』

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