御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
そう言って頬を緩めた菫は今、リビングのソファに座っている黎の足元に腰を降ろし、目を閉じている。

カフェに駆けつけた黎とともに帰宅した後、菫はゆっくりと湯船に浸かり気持ちを整えた。

全身が温まったおかげか多少緊張が解け、ほどよい疲れを感じている。

「これでOK」

ドライヤーの熱風が止まり、黎の手が菫の頭をぽんと叩く。

「なにか飲む? 炭酸水でも持ってこようか?」

黎は背後から菫の顔を覗きこみ、閉じたままの菫のまぶたを指の腹でそっと撫でる。

「ありがとう。でもあとでもらうから、いいよ」

菫は目を開くと、待ちかねたようにくるりと身体の向きを変えて黎の腰に抱きついた。

「菫?」

「ちょっとだけでいいの。このままいさせて」

黎のお腹の辺りに顔を埋め、菫はくぐもった声で答える。

黎は一瞬心配そうに眉を寄せるが声には出さず「好きなだけどうぞ」と優しく受け止めた。

「お母さんからちゃんと逃げて偉かったな」

黎の手が足の間に収まっている菫の頭を雑に撫でる。

言葉の優しさと裏腹なその粗い仕草で黎がどれだけ心配しているのかがわかる。

菫はいっそう強い力で黎にしがみついた。

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