御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「うちの娘、内気で幼稚園で友達がなかなかできなかったんだ。でもホームページで見つけたくす玉を作れるようになって幼稚園に持って行ったらみんなに教えてって頼まれて。それがきっかけで今ではたくさん友達ができて毎日楽しそうなんだ。そのときのくす玉がこれ」

佐伯はくす玉の写真を目を細め眺めている。

きっと娘のことを考えているのだろう。

優しいまなざしは、完全に娘を溺愛する父親そのもの。

その表情を見ているうちに、菫の胸に熱いなにかがこみ上がってきた。

母に強いられてとはいえ、幼稚園の先生を目指していた時期もあったのだ。

自分の作品が子どもに喜ばれるのがなによりうれしい。

おまけに佐伯の子どもは菫の作品がきっかけで楽しい毎日を過ごせるようになった。

結局幼稚園とは無関係の仕事に就いたが、菫が歩んできた道のりは決して間違いではなく無駄でもなかったのだと思え、すっと心がラクになった。
 
じわりと滲んだ目で黎を見ると、愛しげに菫を見つめる視線と絡み合う。

菫を安心させる優しい瞳はふたりきりでいるときとまるで変わらない。

菫は黎から目が離せなくなった。

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