御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「佐伯課長の親バカぶりは社内でも有名ですからね」

肩をすくめ佐伯をからかう黎の言葉に、菫は黎がわざと佐伯が娘の話をするよう促したのだと確信する。

母との関係に悩む菫が少しでも自分の価値を認め、安らかな気持ちで過ごせるように、そう考えたに違いない。

「お、親バカでどこが悪い。大切なものをせいいっぱい大切にできるのは最高だぞ」

佐伯の熱がこもった言葉に黎は苦笑する。

「それは僕も実感してますよ。大切なものを気兼ねなく大切にできるのは極上の幸せですよね。……今まさに痛感してます」
 
色気を含んだ声でつぶやき、黎は菫を真っすぐ見つめている。

けれど今黎が菫を通して見つめているのは菫のお腹で育っている赤ちゃんのはずだ。

佐伯の話を聞きながら、いつか黎も子どもと折り紙を楽しみたいと思い、想像をふくらませていたに違いない。

今も作品集を手に取り目を輝かせ眺めている。

「佐伯課長、そろそろいいですか? 早く会社に戻らないと会議に間に合いません」

そのとき部屋の空気を変える酒井の冷静な声が響き、黎と見つめ合っていた菫はハッと我に返った。

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