御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
黎を見つめる瞳は生き生きしている。

酒井は黎が好きなのだと察し、菫はふたりからすっと目を逸らした。
 
端正な見た目の黎と並んでも見劣りしない美しい容姿を持ち、黎が頼りにするほど仕事ができるに違いない優秀な女性。
 
課長に対しても物怖じせずはっきり意見を言える強さも持ち合わせている。

どれをとっても自分にないものばかりだと、菫はひっそり肩を落とした。
 
その後連絡を受けてやってきた経理部の担当者と入れ替わりに菫は部屋を出た。

扉を閉める間際に振り返ると、早速確認作業が始まっていて、黎や酒井はもちろん、それまで朗らかにはしゃいでいた佐伯までもが真剣な表情で資料を睨んでいた。
 
自分が立ち入れない世界にいる黎を目の当たりにし、菫は閉じたドアに背を預けてうなだれる。

同時に佐伯から娘の話を聞いて沸き立っていた気持ちがあっという間にしぼんでしまった。

その後菫はお腹の赤ちゃんによくないと気付き、ひとまずそれ以上悩むのをやめた。

そしてどうにか気持ちを整えると、今夜は黎が好きなパエリアを作ろうと決めた。

今の様子だと今日もきっと帰りは遅い。

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