御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
せめて黎のためにおいしい食事を用意して体調に気を配ろう。

そう気持ちを切り替え菫がロビー横でエレベーターを待っていると、カツカツと力強い足音が近づいてきた。

「菫」

足音に混じって聞こえてきた自分の名前に、菫は振り返る。

「久しぶり。こっちで会うのは初めてだな。元気にしてるのか?」

「もしかして、悟先輩?」

菫は目の前に現れた男性の姿に驚き、目を見開いた。

彼は菫の中学の部活の先輩、畑中悟だ。

背が高くスマートで美麗で優しい面差しは当時と変わっていない。

学ランではなく紺色のスーツを着こなし、当時よりシャープになった顔の輪郭が、卒業して十年以上経ったと教えてくれる。

「話には聞いてたけど、大きな会社だな。コンクールのときに緊張していつも震えてた菫も、こんな大企業で働いてるんだな」
 
少し日焼けした顔をくしゃくしゃにして朗らかに笑う悟に、菫は顔をしかめた。

「いつの話をしてるんですか。あの頃と違って、今はさすがに震えたりしません」

「うん。あの頃より断然綺麗になった。近くで見るまで本当に菫なのか自信がなかったもん」

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