御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菫の顔を覗きこみ、悟はうんうんうなずいている。

「あ、あの、近すぎ」

菫は思わず後ずさり、悟と距離を取る。綺麗な顔だけでなく人当たりのよさも中学時代から変わっていないようで、今も人懐っこい笑顔で「悪い悪い」と頭を手で掻いている。

「悟先輩、あの、久しぶりに会えたのはいいんですけど、どうしてここに? うちの会社に用事でも?」

菫はスーツ姿の悟を見ながら首をかしげる。

悟は地元では誰もが知る企業の後継者なのだ。

地元の雇用に大きく貢献している建築会社で、国内各地に支店を持つ優良企業だ。

菫の会社と取引があるとは聞いた記憶がない。

なのにどうして突然ここに現れたのだろう。

思い当たる理由がなく、菫は眉を寄せる。

すると、それまで以上に笑みを深めた悟がもったいぶった様子で口を開いた。

「菫に会いに来たに決まってるだろ。だって、俺たち見合いするんでしょ」

来客が途絶えて静かなロビーに、悟の楽しげな声が響いた。





母が会社に押しかけてから数日が経ち、その間も母や菖蒲からは頻繁にメッセージが届いている。

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