御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「いや、もう終わるからいいよ。あっちの支社に行くのは初めてじゃないし、着替えが少しあれば十分なんだ」
 
黎は手を止めず答えると、チラリと菫に視線を向ける。

「もう遅いから早く風呂に入っておいで」

「うん、わかった、そうする」
 
菫が言い終えるのを待たず、黎は手元に残っていた衣類をスーツケースに詰め始める。

「あ、あの資料もメールで送っておくか」

手を動かし同時に頭の中でも明日の準備を整えている黎の心はすでにロンドンにあるようだ。

今回の出張の目的は黎いわく〝サポートという名の尻拭い〟で前向きな目的ではないらしいが、嫌がっているわけではなく、むしろどう向き合うべきかを考えあれこれ計画を練っていた。

その目はまるでゲームをクリアしていく子どものように生き生きとしていて、菫は黎の仕事への強い思い入れを改めて知ったのだ。

きっと今回の出張も、黎は楽しみにしているのだろう。

背を向け準備を続ける黎から目を逸らし、菫は寝室のドアをそっと閉めた。






少しぬるめの湯の中に身を沈め、菫はゆっくり全身を伸ばした。

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