御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
黎と暮らし始めて一カ月と少し。

その間黎が菫をお風呂に誘うことはなかった。

なのにどうしてと、菫は不思議に思う。

何度も抱かれた菫の身体はすべて黎に知られているが、それとこれとは別でやはり明るい中お互いの裸を目にするのは恥ずかしいのだ。

「痩せたな」

お腹の上で組まれていた黎の手が解かれ、菫の身体を撫であげる。

「んっ」

菫の口からつい漏れた声がバスルームに反響する。

くすりと笑った黎の吐息に菫は身を震わせた。

「俺がいない間、ちびの分もちゃんと食べろよ。つらいだろうけど、それは俺も同じだからな」

低く艶のある声に、菫はそっと振り返った。

「つらい?」

黎が口にした言葉の意味がわからず首をかしげる。

「菫が言ったんだろう、俺が出張中、さびしいよりもつらかったって」

「あ……あれはその」
 
たしかに離れていたのはたったひと晩だけだというのにあまりにもつらくて、菫はついその気持ちを漏らしてしまったのだ。

どうしてそんな恥ずかしいことを言っただろう。

菫はうつむき口ごもる。

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