御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「そうなの? 私、海外に行ったことがないからよくわからないけど」

「だったら近いうちにふたりでのんびり旅行にでも行くか。いや、それは無理か。ちびが生まれてからだな」

黎は菫のお腹に向かって「生まれたらすぐにパスポートを用意してやるから楽しみにしてろよ」と楽しげに声をかけていた。





翌日の早朝、黎はロンドンへ向かった。

自宅を出る直前まで留守中の注意事項をいくつも菫に言い聞かせ、何度も『心配だ』『無理は禁物だぞ』『しっかり食べろよ』『体調が悪ければ会社を休め』と繰り返していた。
 
その安定の過保護ぶりはこれまでと変わらず、菫は逐一『わかってる』と繰り返し答えていた。

そしていよいよ黎が乗りこんだタクシーが通りを曲がり菫からは見えなくなったとき菫の目から涙がこぼれ落ちていた。

行ったばかりなのに前回同様さびしい上につらくてたまらない。

妊娠したせいで涙もろくなっているのだろうか。

どちらにしてもこんな調子で一週間耐えられるのかと不安になる。

どんより落ちこみ部屋に戻ってすぐ、菫のスマホに菖蒲からメッセージが届いた。

「どうしよう」

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