御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
オフィス街の中にあり、菫の会社からも徒歩で十分ほど。ランチタイムには会社員が列を作る人気店で、なかなか入れなかったのだ。

場所柄土曜日の今日は空いていて、菫たちは待ち時間なく、そのうえ個室に通してもらえた。

八畳ほどの和室の中央には一枚板の座卓があり、菫と菖蒲は向かい合って腰を下ろす。

するとすぐに和服姿の店員が部屋にやってきてお茶を並べると、メニューを置いていったん部屋を後にした。

菫はメニューを広げ、お品書きをじっくり眺める。

「会社の人が魚料理が絶品だって言ってたから、お造りかなにか頼んでみる? あ、菖蒲はお酒は飲むの? 私は飲まないけど飲みたかったら遠慮せずに飲んでね。お肉料理なら――」

「菫ちゃん」

メニューを見ながら話し続ける菫を制し、菖蒲はその場で姿勢を正した。

「ど、どうしたの、早く注文しなきゃ」

菫は突然真剣な表情で見つめられ慌てる。

「わかってる。だけどその前に改めてお願いがあるの」

「お願いって……」

菫は菖蒲が言おうとしていることを察した。

「菫ちゃん。悟君と結婚して」

「無理だよ」

< 255 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop