御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
きっと今も別れた恋人が忘れられないのだろう。

改めてその事実を思い出した菫は、今も過去の恋を昇華できていない黎を困らせたくないと、考え直す。

「とにかく今日は遅いからまた今度にしよう。実家には改めて電話してみる。だから心配しないで」

菫は黎の手の中にあるスマホを返してもらおうと手を伸ばした。

「え?」
 
黎は菫の手からスマホを遠ざけると、無造作にそれをスウェットのズボンのポケットにしまいこんだ。

「なにを隠してる? 本当のことを話すまでこれは預かっておく」
 
感情を消した声と目を菫に向け、黎は断固たる調子でつぶやいた。

「そんな、困る……」

「だったらちゃんと話せばいいだろ。嘘もごまかしもなしだ」

黎はこれ以上菫の言い訳など聞かないとばかりに顔を歪め、菫に向き直る。

「あの……」

黎の勢いに圧倒され、菫のか細い声はあっさり無視される。

黎の固く閉じられた口元を見ると、怒りが見え隠れしている。
 
黎は嘘をついた菫に呆れているのだろう。

呆れているだけでなく、嘘をつかれて傷ついているのかもしれない。 
 
菫はこれ以上ごまかせないと、覚悟を決めた。

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