御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「今夜は色々あって疲れただろう? このまま泊まっていけ」

黙りこむ菫の頭に黎の手が優しく添えられる。菫は困ったように顔をしかめた。

「れ、黎君……けほっ」

いつの間にか呼吸を止めていて息苦しさに軽く咳きこんだ菫を、黎が面白がるように笑い声をあげる。かと思うとすぐに表情を引きしめた。

「婚約者なんていないんだ。気を使う必要はないよな」

「う、うん」
 
菫は穏やかな黎の声にうなずきながらも、ふとその言葉にひっかかる。
 
菫に向けられた言葉だと受け止めた一方で、まるで黎が自分自身に言い聞かせているようにも思えたのだ。

菫に婚約者などいない。だから黎が気を使う必要はない――と。

「本当、早く言ってくれよ。気付かなかった俺も情けないけど。だけど、よかった」

大きく息を吐き出しつぶやいた黎の言葉に、菫は眉を寄せる。

「よかった?」

黎は菫の嘘を責めるどころか安心したように目尻を下げている。

おまけに普段からめったに感情を見せない黎にはめずらしく、その表情は高揚感にあふれている。
 
いったいなにが起こっているのだろう。

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