御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
黎は口元を緩め、いっそう深みを帯びた瞳で菫の視線を絡め取る。 

黎の指先が菫の目尻をそっと撫でた。

柔らかな仕草に反して触れる指先は熱く、菫の鼓動がとくりと跳ねる。

「嘘で……よかった」 

指先を動かしながらつぶやく黎に、菫はしゅんと身体を小さくし頭を下げる。

「ごめんなさい。どうしても言えなくて」

「もう、いいよ」

黎はそう言って、菫の身体を抱きこんだ。

「今日はもうなにも考えるな。これからのことは明日話そう」

「だから、それは、その。帰らなきゃ……」

「とりあえず風呂に入って温まってこい。着替えなら適当に用意しておくから」

菫を胸に抱いた黎の弾む声が、鼓膜にダイレクトに響く。

「だから、黎君……」

反論しようと身じろぐ菫を、黎はその都度抱きしめては阻止する。

それを何度か繰り返し、黎は何度も泊まっていくようにと説得を続けた。

そのうちあきらめモードに入った菫は黎の申し出に渋々うなずいた。

黎の押しの強さに負けた風を装いながらも、本当のところは菫自身が黎の側にいたかったのだ。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えます」

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