御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
黎の腕の中でもじもじしながらつぶやく菫を、黎は満足そうに見つめていた。




『あなたは菖蒲と違って本当になにもできない子ね』

『菖蒲は将来園長になって幼稚園を盛り立ててくれるっていうのに。あなたは勝手に違う道に進んで自由に生きていくのよね』

『料理や裁縫なんて、高い学費を払ってまで勉強すること? そんなの家のことを手伝っているうちに覚えていくものでしょう。本当、菖蒲と違ってあなたは冷たい子ね。家族や地元を捨てて出ていくんだから』

暗い世界の向こう側から、菫を責め立てる声が聞こえてきた。

あきらめと憎しみに満ちた低い声に、菫は全身をこわばらせ震えながら耐え続ける。

どこにも逃げ場のない、光の筋ひとつ見えない真っ暗闇で。




「母さん、私、頑張るから。いつか母さんに認めてもらえるように絶対に……」

「菫、おい、どうしたんだ」

「私、母さんが喜んでくれるように勉強するし、いつか、いつか」

「菫、目を覚ませ」

母からの冷たい言葉に全身を震わせていたとき、温かな声が聞こえてきた。

頬に落とされた優しい刺激、そして菫を悲しい世界から引き上げようとする強い力。
 
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