たすけて!田中くん
二章 生贄
なんだか気分が浮かないままで、教室に戻る気になれなかった。
まだ昼休みが終わるまで時間があるため静かな場所を求めて、ふらりと人気のない図書室へと立ち寄る。
けれど図書室が目的なわけではない。一階のこの部屋の窓から、裏庭に抜けられるのだ。
窓の枠に足をかけると、既に先客がいることに気づいて動きを止める。
うわ……なんかお取り込み中っぽい。
「ねえ! 清水くん! この子のどこがダメなの!?」
興奮気味な女子の声。
どうやら女子数人が1人の男子を囲っているようだ。
その中で俯いている子の耳が赤い。これはもしかして告白だろうか。
「どこに不満があるの!?」
「いやだから……」
「嫌じゃないなら付き合ってみてもいいでしょ?」
いったいどんな男子がこんなに面倒で熱烈な告白を受けているのだと、ちょっと顔を拝みたくなってきた。
「……俺、この人のこと好きじゃねぇし。そういう気持ちで付き合うことはできない」
あれ、この声。聞き覚えがある。