たすけて!田中くん
ふと清水くんを見やると、私の突然の登場に驚いているようだった。
今のうちに逃げてしまえばいいのに、何故か彼は一歩も動こうとしない。
案外律儀なのか、それとも度胸がないのか。この女の先輩たち迫力がすごいから気圧されているのかも。
「つーか、先輩に向かって態度悪くない?」
「うちらの邪魔すんなよ」
ため息を漏らしながら頭を掻く。邪魔と言われても、明らかに清水くんは困っていた。
女の盲目的な恋愛感情と嫉妬って怖い。周りがまったく見えてない。
「聞いてんの?」
ああ面倒くさい。深いため息を吐いてから、もう一度清水くんを見ると怯えた子犬のような目になっている。……これで見捨てたら、あとで罪悪感に苛まれそうだ。
「先輩の恋は実らないと思いますよ」
回りくどい言葉は通用しないだろうから、この際はっきりと言い放つ。
誰がどう見てもわかりきっている話だ。
「はあ!?」
「みっともないです。自分の気持ちを押し付けちゃって」
清水くんのことが好きだと告白している先輩は、本当の意味で彼のことを見ていない。心から思うのであれば迷惑をかけたくないはずだ。それなのに押せばどうにかなると思っているに違いない。