年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
「やるじゃん、ボディーガード」
 茶化す金城を尻目に、私は社長のあとを追った。

「ごめん、せっかくの食事が台無しになっちゃったね」
 店の外で私を待っていた社長が困ったような申し訳なさそうな顔で言う。
「いえ、十分美味しくいただきましたから。それより社長にお怪我がなくてよかったです」
「ありがとう、やっぱり変わってないね、りこねえ」
「え・・・」
 昔の呼び方が、また私を甘い世界に連れて行こうとする。社長が私の手にそっと触れたとき、パパッとクラクションが鳴った。道の向かい側に昼間乗った黒塗りの車が停まっている。もちろん運転席には永井さん・・・。私は社長からぱっと離れた。
「迎えに来いとは言ってないはずだが」
 運転席の後ろに座っている社長がむすっとした顔で言う。
「ふふっ、でも助かったでしょう。あの辺り、この時間タクシーつかまりませんから」
 バックミラー越しに永井さんと目があった。永井さんは少し眉をあげて聞く。
「どうでした? 金城さんのお店」
「あ、美味しかったです、とても」
「ですよね、私も大好きなんです。店内も綺麗だし、金城さんもイケメンだし、こないだは社長と一緒だったのについ飲み過ぎてワイン二本あけちゃって・・・」
 楽しそうにしゃべり出す。私が食事できたことは特別ではないとでも言いたげだ。もちろんその通りなのだろうけど、何か胸の底がむかむかする。
「あの日は永井がべろべろになるから、連れて帰るのが大変だったんだ」
「ええ~、そんなあ。社長も楽しんでたじゃないですかぁ」
 甘えた声が車内に響く。焼肉の後、社長と永井さんは・・・。さっきの社長との口づけが思い出される。あんな情熱的なキスを永井さんにもするのだろうか。あんなに甘えた表情を永井さんにも見せるのだろうか。
 私にだけ特別なんてことはなく、この人にとって女はきっとみんな一緒なんだろう。
 ホテルに到着し「ありがとうございました。明日からよろしくお願いいたします」と降りると、社長も一緒に降りはじめた。
「しゃ・・・?」
「社長のお宅はここじゃないですよね」
 私が疑問を口にするより早く永井さんがとげとげしく言った。
「今日はここに泊まる。今度のパーティーで使う食材の打ち合わせをシェフとする予定だから」
「・・・こんな時間にですか? 聞いてませんけど」
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