年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
「い!!!いたたたたた!!! 痛い痛い痛い!!」
 私はそのままその男を連行する形で呼ばれた部屋に入ったのだった。

「滝田りこさんですね」
 広々としたスウィートルームは果たして何畳ほどになるのか庶民の私にはまったく検討がつかなかった。その窓際にある上等そうな椅子にこしかけた、これまた上質そうなスーツを身にまとった男がそう言った。ネットで確認した顔、社長、桜庭ジンに間違いない。無造作だけど綺麗にまとめられた黒髪、二重だけど切れ長の瞳、主張しない鼻、矯正歯科の広告でしかお目にかかれないような完璧な口元。まるで芸能人のようだ、と思った。
「はじめまして」
「痛い痛い! もう離して!!」
 ホテルマンは情けない声を出して私の足元でもだえていた。
「そちらは・・・?」
 社長が笑いをこらえながら聞いてくる。
「そちらはじゃねーよ!! おまえの指示だろうがよ! 早くこいつに離すように言えよ」
 ぶはっと絶えきれず社長が吹き出した。破顔すると冷たい印象がふきとんで、子供っぽくなる。私はなぜかその顔に懐かしさを感じた。
「どういうことですか?」
「ははは、すみません、滝田さん。私のボディガードをやってもらうにあたってテストをさせていただきました。監視カメラで一部始終確認しております」
 なんて悪趣味な! 私は内心むっとしたが、これも仕事の一環だと思い直し、「そうですか」と小さくつぶやくにとどまった。
「まさか痴漢並のとらえられかたをするとはね」
 そういうとまたケラケラと笑っている。
 私は手を離した。
「いってえ~・・・こんな野蛮な女、仕事じゃなかったら誰が食事に誘うかよ」
 私が腹を立てるよりも先に靴が飛んできてホテルマンの顔に直撃した。「!!!」
 ホテルマンは悶絶していた。
「失礼なことを言うな」
 社長の靴が片方ない。なんという攻撃力に命中力。ただ者ではない。私が目を丸くして見ていると
「・・・すみません。こいつは私の学生時代の友人で、ホテルマンでも何でもないんですよ。こんな無礼者は我がホテルでは雇いませんのでご安心ください。そして、滝田りこさん」
 社長が私に歩み寄ってきた。
「合格です。是非、私のボディーガードをしていただきたい」
 思わず口元がゆるんでしまった。
「滝田さん?」
「あ、いえ、すみません。靴が片方ないのがおもしろくて・・・」
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