年下イケメンホテル王は甘え上手でいじわるで
「はじめまして、秘書の永井と申します」
 きれいにセットされたかきあげ前髪がよく似合う形のいい輪郭、黒目がちなつぶらな瞳、ちらりと見える八重歯がチャーミングな、間違いなく美人にカテゴライズされる人だ。上下白のセットアップも品があってかわいらしさを引き立てている。
「はじめまして、滝田です。よろしくお願いいたします」
 私は深々とお辞儀をした。お辞儀をしても髪の毛はたれてこない。きっちり後ろでくくっているからだ。化粧もベースと眉とリップ程度だし、服は安物のパンツスーツ。だけど、それの何が悪い。この空間にいるのが居心地悪くなったことを振り切るように、開き直る。私の仕事はボディーガード。動きやすい服が最適なのだ。
「では、参りましょう」
 ホテルの前に黒塗りの車が止まっている。車には無頓着なため車種などはまるで分からなかったが、ドラマで出てくるザ社長の車だなと思った。
「乗ってください」
 永井さんが運転席のほうにまわったので私は驚いた。
「永井さんが運転なさるんですか」
「そうですよ、何か?」
「いえ、すごいですね」
 私は助手席に乗り込み、シートベルトをはめながら素直な気持ちを言葉にする。
「運転免許は持っているんですが、ペーパードライバーで・・・」
「ふうん・・・」
 横目で私を一瞥した永井さんは、車を発進させた。シートは座り心地がよく、揺れも少ない。
「・・・滝田さんって、社長のお知り合いなんですか?」
「いえ、今日はじめてお会いしました」
「本当ですか?」
「ええ」
「ふうん・・・」
 また意味ありげに私をちらりと見る。わずかばかりの悪意がこもっていることを私は見逃さない。
「永井さん、何かおっしゃりたいようですが?」
「ふふっ。いいえ。どうして滝田さんを雇ったのかなあって思って。車も運転できないって、ちょっとびっくりですぅ。それに、社長って、超面食いなんですよ。自分の周りに置く人はみーーんなかわいいか、美人か美男子なんです」
 なるほど、永井さんは社長のことが好きなのか。それで冴えない女がボディーガードをすることが許せない、と。私は即座に腑に落ちた。売られたケンカは買わないのがボディーガードの鉄則だ。いつでも心は平常心に保つことも大事な仕事の一つ。私は余計なことを言って逆上させないように黙っていた。
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