【5/10書籍2巻3巻同時発売】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック3巻発売中】
 まだ薄暗い朝のしんとした空気の中、スイレンはやはり檻の方へと急いでいた。

 街の噂話に耳を澄ませれば、リカルドはこの国に来て舌を噛み切って自殺することも衛兵の命令に逆らうことも許されない特殊な魔法がかけられているので、食事を絶って自らを死に追いやることも出来ないと聞いた。

 的外れな心配なのかもしれないが敵地に居る彼が無理矢理にだとしてもきちんと三食の食事はしているのだと思うとほっと胸を撫で下ろした。

 リカルドは、スイレンが来るようになった最初の頃こそ、すこしだけ周囲を警戒していたようだが、拙い言葉を使ってその日あったことや自分の身の上なんかを勝手に話して勝手に帰っていくスイレンのことはもう気にしないことに決めてしまったらしい。

 苦手な浄化魔法をかけようと懸命に手を伸ばすスイレンを見かねてか、手に触れない程度に近づいてきてくれたりもする。スイレンの浄化魔法ではその汚れ切ってしまった騎士服を綺麗にすることは出来ないが、下着だけでも清潔にはなっているだろうか。確かめることは出来ないけどと思ってから、スイレンは赤面した。

 スイレンはある日、勇気を出して歌を歌った。この王都名物である花娘達は年に一度の収穫祭の時に歌を歌いながら生花を売る。その時歌う歌のひとつだ。リカルドは耳を澄ませるように目を閉じて、歌い終わると音を立てない拍手をしてくれた。

 その時、「誰だ?!」という近くに居た衛兵の誰何の声が聞こえ、スイレンはまた走って逃げた。
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