離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

　おかしなもので、パニックになっている人が近くにいると、妙に冷静になって来る。

　私は急いで、リビングに行き救急車を呼ぼうと、携帯を手にした。

「ヤアァァーーーンッ！！　」

　白鳥さんの奇声が聞こえて、慌てて寝室に戻ると、ハッと目を見張った。

「蓮斗さんっ！！　」

　意識を取り戻した蓮斗さんが、白鳥さんを手早く、毛布でグルグル撒きにしていた。

「ああ〜んっ……、なんのプレイ？　」

　白鳥さんは、独り切な気な声を上げている。

「…… シエナ？　」

　私に気付いた蓮斗さんは、主人を見つけた犬の様に満面の笑みを浮かべ、瞳に歓びを溢れさせて、駆け寄って来ると、ギュウギュウッと抱きしめて来た。

「シエナ、シエナ……ッ！　」

「…… ああ、良かった……。　本当に気が付いて良かった……　」

　ホッと小さく溜息を吐き、蓮斗さんの頭に手を触れて、椅子の当たった箇所に怪我がないか確認する。

「痛っ！　」

「ここ、タンコブが出来てます…… 。　他は？　怪我してない？　」

　ペタペタッと、身体中を触って確認する私の頬を撫でると、

「よく顔をみせてくれ」

　心配そうに覗き込む。

「ここ、血が出てる！　」

　ベッドから引き摺り下ろされた時に、顔を擦り剥いた箇所を、ペロリッと舐めらると、ヒリヒリッとした痛みが頬に広がって、不思議と現実味が増して来た。

「私も、この子も大丈夫よ。　蓮斗さんが身体を張って守ってくれましたから」

　安心させる様に、目を合わせて微笑んでみせる。