離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

 シエナの答えを待っていたが、答えて来たのは、鼻にかかった甘ったるい声だった。

「やだわ! パートナーなら私がいるじゃないですか! 蓮斗さんのお母様からも、一緒に挨拶に来るように、言われてますのよ」


 白鳥か…… 彼女は、俺の母親のママ友、白鳥企業の娘だ。
 
 今は仕事が楽しくて、結婚する気などないと、断っても断っても、無理矢理、俺の妻にと、見合い話を持って来る母に、程々手を焼いて、仕方なく秘書にしたが、これが兎に角使えない。

 わからない事は聞けと言ったら、本当に、一時間に何十回も聞きに来ては、そんな難しい話よりも、私との時間を大切にしてと、意味不明な事を言い始める。 

 仕事を覚える気が無いのが、アリアリとわかる。

 スケジュール管理をさせれば、商談、来客が女性ならば、すかさずキャンセルし、電話を取れば、

「蓮斗さんが他の女と会うなんて、心が痛くて嫌ですわ」
「ええっと、どっかの何とかって、会社の人ですわ」

 情報量ゼロで、何のための秘書か、わからない。

 何度も化粧直しに席を立って、帰って来ると、キツい香水の匂いをプンプン振り撒いて、その匂いでむせて、気分が悪くなる。
 
  TPOを考えてくれ!

 ひと気がなくなれば、途端に、鼻にかかった甘ったるい声で、擦り寄って来て、襲われそうだ。

 何の為に会社に来ているんだ?!

 他の部署に回そうにも、使えなすぎて何処にも回せない。

 正直、お荷物だ。


 結局、自分でスケジュール管理も、アポも取ってるからな、俺の仕事が増えただけだ。

 もう要らないだろ?

「とっても良い子なのよ」

母は言うが、思った以上に、

「どうでも良い子」

 だった。


 一つだけ役に立ったのが、白鳥を避ける為、社長室に鍵を掛ける、と言う習慣が着いたから、セキリティ的に良かった、と思う事にした。
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