花となる ~初恋相手の許婚に溺愛されています~

花となる

強く抱き締められ、翔哉くんの熱を薄い膜越しに受ける。この行為はいつまで経っても慣れないけれど、幸せで、愛しい時間を大好きな人と共有できるのは純粋に嬉しい。熱い塊がわたしの中からずるりと出て行って、優しく頭を撫でられる。翔哉くんの表情は先ほどとは全く違う。でもわたしはどちらの翔哉くんも大好きだ。わたしを求めて飢えた狼みたいになった顔も、わたしを愛しく思ってくれる優しい顔も。
翔哉くんがつけてくれていたコンドームを外す。行き場のなかった精子たち。わたしが大学を卒業するまではしっかりと避妊をする約束になっている。それは二人で決めたこと。未来のことを二人で話して、子供を授かることを夢見ているけれど、でも結婚するまで、夫婦になるまでは我慢しようと話している。

「しょうやくん」
「声がちょっと掠れてる」
「誰のせいですか」
「俺ですね。水飲む?」
「飲む」

水の入ったペットボトルを手渡され、水を喉に通せばその動きがリアルに感じられる。人間って面白い。身体中に感覚がある。先ほどの行為だって、翔哉くんに触れられる度に反応して気持ち良くなってしまうのだから。触れられる度に幸福感が増していくのはまた別の話かもしれないけれど。
翔哉くんにペットボトルを返せば翔哉くんも同じペットボトルから水を飲む。上下する喉仏が少しだけえっちだ。
翔哉くんにぎゅうっと抱き付く。

「しょうやくん」
「そういえば、さっき何か言いかけてたね。どうした?」
「んー」

さっき名前を呼んだときに何を言いたかったかは忘れてしまったけれど、今は翔哉くんに甘えたいし翔哉くんの体温を感じたい。名前を呼ぶことで、わたしの顔を見てほしい。わたしの目を見てほしい。
翔哉くんと視線が交わる。

「可愛くなった」
「え?」
「いや、小さいときからずっと可愛かったけど、最近の晴喜は色っぽくもなった。周りから言われたりしない?」
「言われ…る…」

確かに、周りから綺麗になった、とかいいことがあったんでしょ、とか言われることが最近多々あって不思議に思っていた。わたしはわたしで何も変わらないのに、周りが変化を感じ取っている。でも、変わらない日常ではあるけれど、その日常で翔哉くんに愛を注がれて続けているのだから、わたしは花開けるのかもしれない。

「そうだよね。だって可愛いもん」

たくさんの愛を受けて、わたしは。
そしてまた、キスをされる。

「晴喜、えっちな顔になってる」

だって、翔哉くんのことがまた欲しくなっちゃったんだもん。
そんなこと恥ずかしくて直接は言えないから、翔哉くんから目を逸らさずに見つめ続ける。
翔哉くんだって、目つきが鋭くなってきた。

「もう一回、しようか」

頷くわたしをまた白いシーツに押し倒して。その動きは少しだけ乱暴なのに全然嫌じゃないし、むしろ嬉しくてたまらないのはこの先の幸せをわたしが知ってしまっているから。
最愛の人に、愛をたくさん注がれて、わたしはまた花となる。
< 5 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop