花となる ~初恋相手の許婚に溺愛されています~

生きる理由

日曜日の朝は少しだけ寂しい。だって、今日の夜は翔哉くんと離れなければならないから。翔哉くんの家から大学に行くこともできるけれど、翔哉くんがそれを許してくれない。せめてもけじめだよって翔哉くんが言うから、わたしはそれに従うのみだ。でも寂しい。
先に目が覚めたのがわたしなのは、いつもと変わらないこと。翔哉くんが朝弱いのは、幼い頃から変わらないこと。
幼い頃、翔哉くんの家にお泊まりに行ったり、わたしの家にお泊まりに来てくれたりは当たり前のようにあった。今思えば幼い二人を仲良くさせるための大人の策略なのかもしれないけれど、わたしは大好きな翔哉くんとずっと一緒にいられてとても楽しかったように記憶している。翔哉くんはわたしにとってのヒーロー。私が疑問に思うことで翔哉くんが知らないことなんてほとんどなかったし、いつでもかっこいいお兄ちゃんだ。そんなお兄ちゃんに恋心を抱かないなんて不可能に近いと思う。

「翔哉くん」

とても小さい声で名前を呼ぶ。
早く、その瞳にわたしを映してほしい。早く、優しい声ではるき、とわたしの名前を呼んでほしい。翔哉くんの体温は確かに温かくて、幸せで。でも、もっと、もっと、と思ってしまう。欲張りなわたし。そしてそんな自分に罪悪感を持ってしまう。日曜日の朝は、本当にだめだ。
でも、翔哉くんの腕がわたしを探していることに気付く。朝の弱い翔哉くんだからきっと無意識の行動だと思うけれど、そのことを嬉しく思う自分がいる。
翔哉くんのことで一喜一憂して、感情はジェットコースターになってしまう。だけどそれは、わたしが翔哉くんのことを好きでいる証なんだと思う。好きで大好きで仕方がないくらいの気持ちがあるから、感情の波も激しくなってしまうのだろう。

「はるー」

タイミングのいい寝言に驚く。起きた気配がないから確実に寝言。そのタイミングの良さに驚いたと同時に、嬉しくも思う。夢の中でもわたしと一緒にいてくれること。
今はあまり呼ばれることがないけれど、幼い頃は、はる、と呼ばれることの方が多かったような気がする。
翔哉くんにとって、わたしは、いつまでも幼い頼りないわたしなのかな。でもそれはやはり、幼い頃から一緒に過ごしてきたせいもあると思うし、四歳の差があるというのも大きいのかもしれない。お互いに成人した今では大した年齢差ではないとわたしは勝手に思っているけれど、翔哉くんはまた違う考えを持っている可能性もある。
でも、翔哉くんがいつでもわたしのことを守ってくれるから、わたしは愛されているという実感が湧くし、生きる理由を見つけることができている。
わたしの生きる理由は、この人を生涯支えるためだ。
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