エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

「ご心配なさらないでください」
「え?」
「私、口は堅いほうです」


だから雅史が心配しているようにはならないと言いたかった。
雅史が眉根を寄せて首を軽く傾げる。


「では、お先に失礼します」


バッグを手に取り、くるりと踵を返した。


「海老沢さん!」


雅史には楓に言い含めることがまだなにかあるのかもしれないが、今夜はこれ以上心の傷を増やしたくなかった。

足早にエレベーターに乗り込み、閉ボタンを押す。ゆっくり下降していく箱の中で気持ちを落ち着かせるために何度も深呼吸をした。

すれ違うスタッフたちに「お疲れ様でした」と声をかけられたが言葉にならず、会釈だけでやり過ごす。煌々と明かりのついたスタッフ専用の通用口から出ると、雨の匂いがした。
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