エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
楓の住むマンションは、病院から歩いて十分の距離にある。すぐそばに尞もあるが医師や看護師が優先で空きがなく、近辺の不動産を回り、家賃と通勤距離の条件がもっともよかった物件である。
それほど戸数のない五階建てマンションの三階の角部屋は1DKと、ひとり暮らしには十分な間取り。それほど荷物を抱え込むタイプではないため、すっきりしている。
ダイニングテーブルにバッグを置いて手を洗っていると、ヴヴヴと空気を振動させる音が聞こえてきた。スマートフォンの着信だ。
急いで手を拭いてバッグから取り出すと、それは実家の父からの電話だった。なにを言われるのかわかっているため、雅史に誘われて浮かれた心が途端に重くなる。
「はい、楓です」
スマートフォンを耳にあて応答すると、《楓、私だ》と父、芳郎の低い声がした。
たったひと言で威厳を感じさせるのは、楓の地元、千葉でも有数の海老沢総合病院で院長を務めているせいもあるだろう。
《約束の期限は過ぎたが、いったいいつ戻ってくるつもりなんだね》
「あ、うん……」