エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

不可解な夜があったのを思い出す。

鎮痛剤を手渡して帰そうとしたが、目眩を起こしたため彼女をホテルの部屋へ引き入れたときだ。彼女にひと晩だけでいいから一緒に過ごしてほしいと迫られたあと、雅史は唐突に強烈な眠気に襲われた。
その後の記憶はなく、気づけば朝。奇妙な夜だったと首を捻った。

もしかしたら芹菜は、雅史がミネラルウォーターを取りにいっている間に飲みかけのコーヒーに睡眠薬でも仕込んだのではないか。そうでなければ、あの強い睡魔の説明がつかない。

雅史と楓の仲に気づいた芹菜が、揺さぶりにかかったのだろう。

帰国した夜、楓が『アメリカで石川さんと……』と言いかけたのは、このメールの真偽をたしかめようとしたのではないか。
もちろん彼女と過ちなど犯していないが、いかにも一夜を過ごしたように見える写真を提示されたら、楓が追及を躊躇うのも当然だ。

帰国以降、どことなく元気がないように見えたのはこのせいだったのか。

お互いの父親に認めてもらえないのが原因と思っていたが、それだけではなかった。いや、むしろこっちのほうが大問題だ。

言いようのない怒りが体の奥から湧き出てくる。
つれない態度を取り続ければ芹菜もあきらめるだろうと高をくくっていたが、このまま放置すればさらに助長するだろう。
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