エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

沙月の言葉に胸を撫で下ろす。

t-PAとは脳の血管に詰まった血の塊を溶かす薬である。発症後四~五時間以内に行える治療のため、早さがなにより重要だ。


《海老沢さんはどう? 少しは快方に向かってる?》


そう尋ねられて初めて、自分の体調不良を思い出した。

反射的に額に手をあてるが、特に熱さは感じない。あれほどだるかった体もだいぶ軽くなった気がする。


「だいぶ良くなりました。大丈夫です」


数時間ぐっすり眠ったのがよかったのか。もしかしたらここ最近、楓が置かれた状況の疲れが出ただけかもしれない。子どもの知恵熱のようなものだ。


《よかった。でも油断しないで今夜はしっかり休んでね》
「ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみませんでした」


沙月との通話を切り、雅史にメッセージを入力する。


【院長が倒れたと聞きました。私は大丈夫ですので、院長のそばにいてあげてください】


忙しさで読めるかわからないが、送信をタップしてバッグに戻した。
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