エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

慎一がクスッと笑う。


「とても優しく聡明なお嬢さんだ」


それは雅史が一番よく知っている。


「すみれさんによく似てる」
「……父さんはまだ、彼女のお母様を?」


未だにその心に元恋人が住んでいるのか。別れから何十年も経ち、互いにべつの人と結婚してもなお。
慎一は小さく頭を振った。


「もちろん過去には愛していた。駆け落ちを考えるほど本気で結婚したかった。でも、お前の母さん、静香(しずか)と出会って、その想いは消えていったよ。だからこそ雅史も利臣も授かったんだ。静香にはなかなか伝わらなかったがね」


悲しく笑う顔に雅史まで胸が痛くなる。

夫婦になりふたりの子どもをもうけながら、心の距離が縮まらず三十数年も経ってしまったふたりは、すれ違ったままでいいのだろうか。
昨夜、慎一が倒れた一報を入れたが、母はまだ来ない。

(――いや、このままでいいわけがないだろ)
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